雫森の中。宗一郎は行列を眺めていた。 静々と進む。 先頭を行くは大きな紋付袴。 それに続くは小さな紋付袴たち。 伏せるまなざしは厳粛のため。 抑える足取りは厳粛のため。 それでも抑えきれずに髭がひくひくと揺れる。 やがて輿が現れた。 簾は下りておらず、乗るものを顕わにしている。 白無垢に身を包んだ花嫁。 かすかな目張りも艶やかに、うつむいている。 ふわふわとした頬はその心に満ちる喜びゆえか。 望んで嫁すなら何よりと、宗一郎は見知らぬ花嫁をただ見送る。 輿が過ぎ去り、また続くは小さな紋付袴たち。 ふさふさとした尾が揺れている。 行列は静々と進む。 最後にもう一度大きな紋付袴。 老いてなお威風堂々、尾が五本あった。 その後ろ姿も次第に遠くなり、ついには木々の間に見えなくなる。 ぱらぱらと、宗一郎の眼鏡に水滴が付着する。 露ではない、空からのものだ。 黒い衣服にも水玉が描かれる。 「宗一郎」 呼ぶ声に振り向けば、いつもの無表情にも見える澄まし顔の緋雪。 宗一郎は口の右端をわずかに上げ、応えた。 「行くか」 もう雨は落ちてこない。 最初から最後まで、空はまさに蒼穹だった。 |